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挑戦を続ける、くしまアオイファーム

  • 執筆者の写真: R S
    R S
  • 4月9日
  • 読了時間: 5分

宮崎県串間市を拠点に青果用サツマイモを扱う農業法人、株式会社くしまアオイファーム。自社でのサツマイモ生産に加え、契約農家からの買取りを行い独自の販路開拓を特徴としています。サツマイモを熟成させる貯蔵庫の整備や、香港やシンガポールなどアジア圏への輸出も積極的に展開し、商品価値を高める取り組みを続けています。


前回のインタビューから約2年が経過し、同社はどのような成長を遂げ、サツマイモ基腐病との闘いはどう進展しているのでしょうか。社長の奈良迫洋介氏に最新の取り組みについて話を伺いました。




 

――サツマイモ基腐病への対策状況を教えてください。

地域によって状況には差が出ています。串間市はもともとサツマイモ基腐病の激震地でしたが、抵抗性品種である「紅まさり」を導入し、さらに早期収穫を徹底している農家さんが多いため、病気の発生は大幅に減少しています。行政の正式発表でも発生率は1〜2%程度と報告されているはずです。


ただし、状況が悪化しているエリアもあって危機感を持っています。これまで被害があまり出ていなかった地域では基腐病への対策意識があまり高くない場合もあり、今後の病気の広がりが懸念されます。このまま何も対策をしなければ、早ければ今年、遅くとも2026年の作付には基腐病の被害が拡大する可能性が高いと考えています。自治体の指導にもばらつきがあり、積極的に対策を促している地域とそうでない地域で取り組みに差が見られるのが現状です。


基腐病対策の考え方は以前から変わっていません。「抵抗性のある品種への切り替え」と「早期収穫」が最も効果的です。品種によって基腐病への耐性に明確な差があることは既にはっきりしています。


――研究機関との共同研究について進展はありましたか?


宮崎大学や理化学研究所との共同研究を継続していて、成果が出始めています。「べにはるか」の系統で基腐病に強い新品種を開発中です。重イオンビームを使った品種開発手法により、「ネオはるか」と仮に呼んでいる新しい「べにはるか」の可能性が見えてきました。2025年末頃には品種登録できるのではないかと期待しています。収量など未知数な部分もありますが、うまくいけばサツマイモ業界にとって大きな明るいニュースになると思っています。




――栽培する品種を変更することに抵抗を感じる農家の方も多いと感じます。


そうですね。作り慣れた品種から変更すれば、施肥設計が変わったり栽培方法も調整が必要となったりするため、不安もあるのだと思います。「べにはるか」は比較的高値で買い取られますから、病気さえなければ新しい品種を作るよりも従来通りにこだわる気持ちはよくわかります。


私たち自身も2019年には苦い経験をしました。当時はサツマイモ基腐病についての知見が少なく、「今年はべにはるかを作ってください」と農家さんに推奨したところ、結果的に大部分が基腐病の影響を受けてしまいました。ただ、当時と現在では蓄積された知見が違います。


個人的には、優秀な農家さんはリスクヘッジをしっかり行っていると思います。生産技術だけでなく、経営的な視点を持って品種選択を考えてもらえるといいですよね。


――高齢化や離農などで人手不足が深刻化していますが、こうした課題についてはどうお考えですか?


人手不足は深刻な問題ですが、技術革新で対応していく必要があると思っています。サツマイモ栽培の全工程を100とした場合、収穫作業に掛かる労力は約36%、苗を作る作業が約8%、植え付け作業が約16%を占めています。収穫に関しては機械化が進んでおり、ある程度労力の削減が図れていますが、育苗と植え付けの部分はまだ効率化が進んでいません。


農機メーカーもサツマイモの苗の移植機を開発していますが、歩留まりが悪かったり、人手の方が速いといった課題があり、普及が進んでいないのが現状です。当社としては、独自のアプローチで技術革新を進めていけないかと考えているところです。


高齢化による離農も進んでいますが、これによって当社が使える農地が増えるとすれば、そこから新たな可能性もでてくるように思います。農地法などの制約もあって農地の流動化はそこまで進んでいないのですが、地域全体で協力して新陳代謝を促進することも重要だと考えています。


――サツマイモ市場の状況についてはどうお考えですか?


国内市場全体では、今後5年程度は毎年数%程度の成長を続けていくだろうと予測しています。特に健康志向の高まりから、ジャガイモよりもサツマイモの方が食物繊維が多いという特性が注目されていますね。コンビニでもサツマイモのスイーツが定着していて、もはやブームではなく日常的になったと見ています。


海外市場については、特に中国市場での紫芋の需要が高まっています。中国では紫色は高貴な色とされることもあり、引き合いが強いようです。




――ブランド戦略や今後の展望についてお聞かせください。


当社として力を入れていきたいのは自社品種の開発です。サツマイモは栄養繁殖で増やせるため、コピーされやすいという課題があります。そこで、知財保護の観点から、将来的には種子からサツマイモを作る技術の確立を目指しています。Driscoll's社やZespri社のようなビジネスモデルを参考にしながら、知財ビジネスとしての側面も強化していきたいと考えています。


2023年12月には沖縄に「おきなわアオイファーム」という子会社を設立し、宮古島でのサツマイモ生産も開始しました。沖縄では一年中栽培ができ、需要に応じた柔軟な収穫が可能です。特に紅芋の栽培を行い、香港などへの輸出も始めています。人材確保などの課題はありますが、通年供給体制の確立を進めています。


私たちの企業理念は「強い農業はこえていく」です。安心・安全でおいしく、安定的で高い収益性を持ち、時代にあった商品やサービスを生み出せる「強い農業」を実現したいと考えています。サツマイモ基腐病への対応は引き続き重要な課題です。当社も研究開発や技術革新、市場開拓などを通じて、サツマイモ産業全体の発展に貢献していきたいと考えています。

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