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地域や研究機関と力を合わせ、「共創」で農業を強くする。くしまアオイファームの挑戦

宮崎県串間市で青果用サツマイモを専門に扱う農業法人、株式会社くしまアオイファーム。もともとは一家でサツマイモ農家を営んでいた池田誠氏が2013年に法人化し、アジア圏への輸出や独自ブランドの開発などを通して、年商22億円の企業へと成長させました。


2020年から同社の2代目社長に就任した奈良迫洋介氏に、サツマイモ基腐病による影響や現在の状況、今後の課題についてうかがいました。



――くしまアオイファームの事業内容について教えてください。


青果用のサツマイモの生産、加工、販売を行っています。もとはお米とサツマイモ農家の息子として家業を継いだ先代社長の池田(現・会長)が、サツマイモ一本に絞り2013年に一農家から法人化して事業を拡大してきました。


当社でもサツマイモの生産を行っていますし、契約農家さんたちからサツマイモを買い取って小売店などに販売。農協を通した市場出荷はなく、自社で独自販路を開拓するスタイルを取り、香港やシンガポールなどアジア圏への輸出も行ってきました。甘みの強い独自ブランドを開発したり、高温多湿条件を維持してサツマイモを熟成貯蔵するための1,500トン規模の貯蔵庫を整備したりと、さまざまな取り組みを重ねてきています。



――くしまアオイファームは経営理念として「強い農業はこえていく」を掲げられていますね。


「安心、安全」、「おいしい」、「安定的で高い収益性」の3つがバランスよく成り立ち、時代にあった商品やサービスを生み出し、農業が自立できる「強い農業」と定義しています。時代も世代もしがらみも越えて、農業を未来につなげていくことが私たちの使命だと考えています。


商品を自分たちで売ることは、強い農業の実践のひとつです。愛情を込めて一生懸命つくったサツマイモを自分の手で売っていくことで、農家という職業に誇りを持てる人が増えてほしいと願っています。



――サツマイモ基腐病について、くしまアオイファームの状況を教えてください。


宮崎でサツマイモ基腐病が初めて報告されたのは2019年1月ですから、2018年に生産したものから症状が出ていたということになります。その当時、私たちの周りでは「宮崎紅」という品種だけが基腐病の症状が出ていて、「べにはるか」には症状が出ていませんでした。


――しかし、べにはるかはコガネセンガンと同じようにサツマイモ基腐病に弱いとされている品種ですね。


その通りです。ところが、2019年の作付時点ではサツマイモ基腐病のことはほとんど判明していなかったため、私たちは生産農家さんたちに「宮崎紅は病気に弱いので、今年はべにはるかを作ってください」とお願いしていたのです。結果的に、2019年に当社が生産したべにはるかは、大部分が基腐病の影響を受けました。


畑だけでなく、貯蔵庫でも大きな被害が出ました。サツマイモ基腐病は潜伏期間があるため、収穫時には問題ないように見えても実際には感染している場合があります。さらに感染力がとても強いため、貯蔵中にも感染が広がり発症していきます。当時はそうした性質もよくわかっていなかったため、基腐病の発症した圃場で収穫されたサツマイモを「見た目に異常はないから、大丈夫だろう」と判断して貯蔵していたのです。その結果、貯蔵していたものが基腐病により商品価値を失い、大きな損害を受けました。



そのときは、この南九州の青果用サツマイモは産地として消滅してしまうのではないかという危機感を覚えました。青果用のサツマイモは茨城県や千葉県や徳島県など、全国各地でつくられています。消費者にとっては代替品が簡単に手に入る状況で、南九州産にこだわる必要はないわけです。焼酎用のコガネセンガンをつくる農家さんたちや焼酎メーカーさんたちも強い危機感があったことと思いますが、青果用サツマイモに特化していた我々も非常に不安でした。


――どのような対策を講じてきたのでしょうか。


少しでも効果が期待されるアイデアは、すべて試験を行いました。その試験結果は当社の決算説明会の場でも公表しています。


さまざまな対策を試したなかで明確に効果があったのは、品種を変えることでした。特にサツマイモ基腐病に強いとわかった品種が「べにまさり」だったので、契約している農家さんや農協に対して生産品種の切り替えを提案しました。いま、この地域で生産しているサツマイモはほとんどが「べにまさり」です。その効果もあってか、近隣の基腐病の発生率はかなり抑えられています。




――くしまアオイファームでは、大学との共同研究も行っているそうですね。


宮崎大学、石川県立大学、理化学研究所の3つの機関とそれぞれ共同研究を行っています。一般的な交配育種や、重イオンビームを用いた育種などで生まれた系統の苗を研究室から受け取り、串間市内の圃場に植えて当社で育てており、今年は2,000種類近くの系統を試験栽培しています。


サツマイモ基腐病に耐性のある品種の特徴を研究していくなかで、興味深い発見がありました。ポリフェノールの含有量が低い品種ほど、基腐病への耐性が強いという相関関係が見つかったのです。


この発見は、育種の効率を大幅にアップさせるものです。品種開発ではさまざまな品種や系統での交配を行っていますが、基腐病に罹りやすい系統を植えて育てても仕方がありません。ポリフェノールの量という指標があれば、植える時点で選抜できるため育種コストを下げられます。多くの生産者や消費者には直接の関係はありませんが、基腐病に強い品種の開発サイクルが早まることで、サツマイモ農業にとって大きな効果をもたらすのではないかと期待しています。



――今後のサツマイモ生産における課題はなんでしょうか。


サツマイモは基腐病以外にもさまざまな病気や害虫の影響を受けます。グリーンハウスや工場ではなく畑で栽培する作物ですから、近隣の地域が足並みをそろえて対策に取り組まなくてはなりません。一部の畑だけが対策を強化しても、対策していない畑から病気や害虫が出れば、その地域全体に広まってしまいます。


特に対応が難しいのは、家庭菜園などで趣味的にサツマイモを栽培している場合です。病気に感染している可能性のある種芋ではなくバイオ苗を買って植えてほしいのですが、「自分のところで食べるだけなのにそんなコストはかけられない」と言われてしまいます。


こうした状況に対しては、県や市町村など行政による介入も必要ではないかと個人的には考えています。私たちも串間市に相談したことがありますが、条例制定のために議会で審議する必要があるなど、ハードルは高いようです。具体的な対策を行うには、苗や種芋を買ったり土壌改良を行ったりと費用が通常よりもかかりますから、金銭的なサポートもできれば理想的だと思います。


――今回、SAVE THE SWEET POTATOプロジェクトに参加を表明していただきました。取り組みについての思いをお聞かせください。


サツマイモ農業を守り強くするために私たちにできることがあれば、なんでもやっていきたいです。サツマイモ業界に必要なのは、「競争」ではなく「共創」。青果用も焼酎原料用も関係なく、お互いに力を合わせて、農業の未来のために何ができるのかを追求していきたいと思っています。





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