40年の協業が築いた絆と挑戦――寿海酒造が語る焼酎づくりと地域への想い
- R S
- 9月17日
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宮崎県串間市で本格焼酎を製造する寿海酒造株式会社。5つの老舗焼酎蔵による協業組合として発足してから今年で40周年を迎える同社は、赤芋を主原料とした「ひむか寿 赤芋仕込み。」を旗艦商品に、南九州の文化である本格焼酎を多彩なラインナップで作り続けています。サツマイモ基腐病の影響や市場環境の変化について、常務取締役の吉田知佳津氏に話を伺いました。

5社の協業から始まった40年の歩み
昭和60年(1985年)、串間市の焼酎メーカー5社が県内初の共同組合として設立したのが寿海酒造の始まりでした。それぞれが100年以上の歴史を持つ焼酎蔵の合併は決して平坦な道のりではなく、役員会では激しい議論が交わされることもあったそうだと吉田さんは語ります。しかし、「ともに苦しんでともに生きる」という共助の精神で協業を成し遂げました。
発足以前に抱えていた課題は、販売面の規模感不足でした。個々の蔵では流通や問屋との関係構築に限界があったため、協業によって販売力を強化することが狙いでした。
寿海酒造の大きな特徴は、豊富な商品ラインナップです。現在約200種類の商品を製造しており、アルコール度数20度から42度まで1度刻みでの製造も可能です。原料面では、赤芋(宮崎紅、紅あずま、紅さつま、紅まさり等)と白芋(コガネセンガン等)の両方を扱い、麹も白麹と黒麹を使い分けています。蒸留方式も減圧蒸留と常圧蒸留の両方に対応しており、貯蔵についてもタンク貯蔵、瓶貯蔵、樽貯蔵と様々な手法を駆使しています。異なる材質の樽を使った熟成にも取り組んでおり、これらの組み合わせにより多様な味わいの原酒を製造できることが寿海酒造の強みとなっています。
この技術的な柔軟性により、酒販店やスーパーからのPB(プライベートブランド)商品の依頼にも積極的に対応。得意先限定商品や問屋を通さない直接取引商品など、付加価値の高いオリジナル商品の製造も可能です。

取引先との信頼関係
サツマイモ基腐病は焼酎業界に深刻な影響を与えています。寿海酒造でも製造量の減少を余儀なくされ、一部商品では販売休止という事態も発生しました。しかし、長年築いてきた信頼関係が危機を支えてくれたと吉田さんは言います。
芋焼酎の主力原料であるコガネセンガンについては、古くからの取引業者との関係があったため、比較的安定した調達が可能でした。原料の価格上昇はあったものの、大手メーカーとは異なる規模感であることや、長期にわたる安定的な取引関係のおかげで、厳しい時期も乗り越えることができたのです。
基腐病に強いとされる新品種「みちしずく」での焼酎試作も行いましたが、繊維質が多く、自社の製造設備では対応しにくかったと吉田さんは振り返ります。味わいについてはブレンドによって調整できそうだったものの、加工プロセスでの課題から「みちしずく」の導入は見送っています。
消費者との交流とブランド戦略
コロナ禍前まで、寿海酒造では地元3社と共同で焼酎イベントを開催していました。串間市の文化会館で焼酎メーカーと地元業者が集まり、焼酎を楽しむ交流の場として2回ほど開催しましたが、新型コロナウイルスの影響で中断しています。現在は試飲会や展示会の開催が戻ってきているものの、消費者との直接的な交流機会の重要性を改めて感じているとのこと。
若い世代へ焼酎を訴求していくことも重要な課題です。アルコール離れが進んでいる中、香りの高い焼酎の開発や樽熟成による付加価値向上などに取り組んでいるそう。過去には、自社栽培のサツマイモを原料に使用した「黄金魂」を4000本限定で販売し、短期間で完売した成功事例もありました。ストーリー性のある商品への需要を実感し、さらなる高付加価値商品の開発を進めたいと吉田さんは語ります。

農家との絆と地域への想い
基腐病の影響で、吉田さんと同世代で農家を営んでいた人たちも、その多くが離農を余儀なくされたといいます。まったく異なる職業に転職した知人も少なくありません。現在は農家と焼酎メーカーの交流機会も減ってしまいましたが、以前のような交流を復活させて、互いの知恵を共有し、新たな可能性を見出すことで難局を乗り越えていけるのではないでしょうか。有機栽培など生産にこだわりの芋を使った高付加価値焼酎の開発を通して、農家の経営改善にも貢献したいと考えています。
寿海酒造では、赤芋焼酎の研究開発にさらに力を入れていきます。原料として主流のコガネセンガンについては日本醸造協会などで多くの学術研究が行われていますが、赤芋系焼酎の研究は比較的少ないのが現状とのこと。宮崎県の食品開発センターとも連携を深め、赤芋焼酎の特性解明と新たな製品開発を進めていきます。
40年という節目を迎えた寿海酒造は、協業から生まれた結束力と地域との深い絆を活かし、南九州の文化である本格焼酎の未来を切り開いていく挑戦を続けていきます。
吉田さんコメント

「寿海酒造は5つの蔵が集まって40年間やってきました。一人ではできないことも、みんなでやれば乗り越えられる。それが私たちの原点です。基腐病や市場の変化など課題は多いですが、農家さんとの信頼関係を大切に、地域全体でサツマイモ産業を支えていきたい。SSPの活動を通じて、芋焼酎の魅力をより多くの方に知ってもらい、農家さんにも希望を持ってもらえるような取り組みを続けていきます。」



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