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品種改良でサツマイモ基腐病対策に寄与したい。AgTechスタートアップ「CULTA」の取り組み

更新日:2023年5月18日

近年の技術革新によって、さまざまな業界で変革が起こっています。農業分野でも「AgTech」や「アグリテック」と呼ばれるデジタル技術を取り入れた新たな農業を模索する動きが広まっています。次世代の農業生産の環境整備を目指すスタートアップ企業「CULTA」もそのひとつ。同社は新たな品種改良(育種)の技術開発に取り組んでいます。


品種は農業にとって重要な要素です。例えばサツマイモには「紅はるか」「安納芋」「鳴門金時」「コガネセンガン」などの品種があり、それぞれ色や味、大きさなど、異なる特徴を持っています。


品種は自然のなかで生まれることもあれば、品種改良のように人間が意図的に交配させて新しい特徴を持ったものを作り出すこともあります。品種改良によっておいしさを強められるほか、天候に強く丈夫に栽培できるようになるなど、農業において欠かせない要素なのです。


一方で、病気への耐性も品種によって異なっており、サツマイモ基腐病でも品種により感染の大小が変わってきます。


今回はサツマイモの品種改良にも取り組んでいる、CULTA 代表取締役の野秋収平さんに、サツマイモ基腐病対策への課題や予想される未来について、品種改良の視点からお話をうかがいます。




サツマイモは海外でも高く評価され、可能性を感じる

——CULTAでは、どのような事業に取り組んでいるのでしょうか。


CULTAは、「次世代の農業生産の環境整備」を目指し、品種改良の高速化に寄与する技術開発と自社独自の品種の開発に取り組んでいます。


品種改良は、これまでさまざまなイノベーションを起こしています。例えば1940年代から1960年代にかけて行われた「緑の革命」では、品種改良によってさまざまな穀物の収量が増加したことで、当時危惧されていた食料飢饉を回避しています。また今後は、気候変動に耐え得る品種や、「シャインマスカット」に代表される収益性の高い品種など、新たな品種を生み出すことが求められています。


品種改良において、これまで2つの大きな課題がありました。1つは開発に多大な時間を要することです。品種改良の効果を明らかにするためには、交配した子どもたちを何世代にも渡り栽培しなければなりません。例えば、私たちが扱っている「イチゴいちご」の場合、通常は1年に1回しか栽培できないため、これまでは品種改良に十数年かかっていました。私たちは、この品種改良に伴うプロセスを高速化することで、短期間でその効果がわかる技術の開発に取り組んでいます。


もう1つは、求められる品種を的確には作り出しにくいことです。ある特徴を持った品種を作るには、2つの異なる品種を交配する必要があります。これまでは、技術者の経験と勘によって、無数にある組み合わせのなかから、選抜されてきました。そこで私たちは、遺伝情報であるゲノムデータを解析し、最適な組み合わせを選び出すことで、求められる特性を高い確率で生み出す技術の開発にも取り組んでいます。


この2つの技術を活用することで品種改良の高速化と高い付加価値を持つ品種開発に取り組むことで、農家さんの収益性の向上を目指しています。


—— CULTAでは、イチゴの品種改良に取り組んでいると聞きました。その背景を教えてください。


私たちは、農家さんに開発した品種をお渡しして、高品質な農作物の生産を支援しながら、できあがった農作物を私たちのブランドのもとに責任を持って販売するという、新たなビジネスモデルに取り組んでいます。


農家さんの収益性向上には、農作物の単価を上げることと、それを維持することが求められます。そのためより品質のよいものをちゃんと作り続けられ、それが単価に反映される環境づくりが重要なのです。


そうしたなかで最初の品目では、ブランド構築と利益性の観点から、付加価値を与えやすく、日本での生産が世界的に見ても優位な品目のなかから選びました。その結果「イチゴ」の品種改良に取り組むことになったのです。


——イチゴに続いて取り組むことになったのがサツマイモだそうですね。サツマイモが選ばれた理由について教えてください。


日本のサツマイモの輸出量は増加傾向にあって、2021年には輸出額23.3億円と野菜の中ではイチゴに次いで第2位となりました。加えて海外での販売価格は、日本での単価の2倍近くになっており、高い収益性も期待できます。


また植物の特徴として、どちらも栄養繁殖性作物というグループに属しています。イチゴもサツマイモもつるを切って植えれば新たな株を栽培できます。そのためイチゴで培った技術をサツマイモで活かしやすいのです。


こうしたビジネス面、技術面双方で、サツマイモに可能性を感じたことから、サツマイモの品種改良を検討しています。



病気に弱い遺伝子が解明されておらず「やっかい」

——サツマイモ基腐病について、野秋さんの見解をお聞かせください。


専門家の方や農家さんと意見交換するなかで、やっかいな病気だと認識しています。サツマイモ基腐病は、カビ病の一種と予測できますが、発生してしまった以上は、人間の移動で拡散してしまうため、仕方がないところがあります。


例えばバナナでも、キャベンディッシュ種というメジャーな品種が、フザリウム菌というカビ病が原因で、絶滅しかけました。これも土壌に繁殖したカビ菌が原因だったため、同様のことが予測されます。人間社会でもパンデミックが時折起こるように、農作物にとっても避けては通れない問題といえます。


また発病に関する理解や研究があまり進んでいないことも影響を与えているのではないでしょうか。作物の形や性質といった形質は、遺伝子の構成によって決められます。病気に対する抵抗力の程度も遺伝子の構成によって変わります。


サツマイモ基腐病では抵抗性がある程度強い品種は見つかっています。しかし遺伝子レベルではまだ明らかにされていません。病気への抵抗性の高い遺伝子がが判別できれば、病気への抵抗性が高い品種が特定できるので、農家さんのストレスも減ると思います。ですがそのためには遺伝子レベルでの解明が欠かせないのです。


——CULTAの品種改良や解析技術でサツマイモ基腐病の解決は可能でしょうか。


可能性は十分にあると考えられます。まずは病気への抵抗性が低い遺伝子を特定することが重要です。まず病気への抵抗性の強さを決める遺伝子が、少数の遺伝子によって支配される「質的形質」か、あるいは大量の遺伝子が関与する「量的形質」か、を判断します。


その上で、質的形質の場合は、DNAマーカーとよばれるチェッカーを用いて、品種改良の過程で得られたゲノムデータをもとに、遺伝子の有無を判別することが可能です。一方、量的形質の場合にはゲノムの情報から機械学習で予測モデルを作り、抵抗性のある品種を効率的に生み出す必要があります。まずこのいずれの形質なのか判別するのに数年、そこから病気に強い品種への開発が始まるので、十数年近くかかってしまいます。


加えて、サツマイモは遺伝様式子構成が複雑なため、このような遺伝解析が難しい品目とされており、遺伝解析には高いレベルが求められるのです。そのため、私たちのような解析技術を持つ企業が役立てるところがあると思います。


人々に愛されることで品種として生き残る

——サツマイモ基腐病に弱い品種は衰退してしまうのでしょうか。


基腐病抵抗性を有してかつ他の特性も優れていれば、抵抗性の低い人気品種も衰退する可能性が否定できません。ですが、人気があるということは、品種が生き残る可能性がそれだけ高いということもできます。


例えばお米の「こしひかり」は、温暖化や台風といった天候の影響を強く受けるため、実は栽培が難しくなっている品種の1つです。にもかかわらず、いまでも認知度が高くみなさんに愛されていることから、多くの農家さんが栽培し続けています。このように品種名が社会的な認知を獲得し、多くの人から好まれることが、品種の生き残りには欠かせないのです。


また品種改良の観点からも、そういった品種は確実に残して、多様性をキープすることが求められます。紅はるかやコガネセンガンなどはこれまでも長く人々に愛されてきました。それは紅はるかやコガネセンガンといった品種が、それだけ優秀な遺伝子を持っているということに他なりません。将来的に生産が途絶えたとしても、品種改良の親として活用するために、遺伝資源を絶やさない努力が、農業界には求められるのです。


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