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「さつまいもアナウンサー」と考える 消費拡大のためにできること

  • 執筆者の写真: R S
    R S
  • 6月4日
  • 読了時間: 8分


土壌伝染性の病害「サツマイモ基腐病(もとぐされびょう)」の知見集積などを目的とした産学連携のコンソーシアム「みんなのサツマイモを守るプロジェクト-Save The Sweet Potato-」(SSP)。今年で設立3年を迎えるのに合わせ、ゲストを迎え、サツマイモ産業をめぐる現状や今後を展望していきます。

第1回は、フリーアナウンサーで「さつまいもアナウンサー」として活動する鳥越佳那さん。鳥越さんが語る南九州とサツマイモの関係、そしてサツマイモ産業がより元気になるためにそれぞれができることとは――。SSP代表の後藤基文さんと語り合いました。




鳥越佳那(とりごえ・かな)さん

フリーアナウンサー。2017年に静岡第一テレビに入社。アナウンサーとして、朝の情報番組のメインMCや番組リポーターなどを担当。150軒以上の農家にインタビューしてきた。22年に同社退職後、鹿児島県鹿屋市の地域おこし協力隊に転身。24年に独立。サツマイモ好きが高じ、「さつまいもアナウンサー」として活動を続ける。



後藤基文(ごとう・もとふみ)さん

飼料・農園芸資材を扱う商社「welzo」(ウェルゾ)取締役。大手コンサルティング会社で中小企業の事業再生、M&A業務に従事したのち、官民ファンドの地域経済活性化支援機構に転職。2017年にwelzo社外取締役への就任を経て、2022年から現職。経営企画やブランディング、新規事業などの責任者を務める。




サツマイモをめぐる「原体験」 母が買って来たあの日の焼き芋


後藤基文さん(以下、後藤さん)「さつまいもアナウンサー」としてご活動されているとうかがい、驚きました。そう名乗っていらっしゃる方は他にはいないですよね。


鳥越佳那さん(以下、鳥越さん)そうですね。おそらく、今のところは私だけかと思います。サツマイモが大好きなアナウンサーということで名乗らせていただいています。


私は鹿児島県がふるさとで、蒸かし芋が自然と日常の食卓にのぼるような家庭で育ちました。家族もサツマイモが大好きですが、母方の曾祖父がサツマイモ農家だったルーツもあり、私のDNAの中にはきっとサツマイモ好きの遺伝子が刻まれていると思っています。


後藤さん 子どもの頃からずっとサツマイモは特別の存在だったのですか。


鳥越さん サツマイモを特別に思うようになったのは社会人になってからです。元々、静岡県のテレビ局でアナウンサーとして働いていたのですが、ちょっぴり不規則な生活で、20代半ばに体調を崩したことがありました。


そんなとき、心配して私の家に来てくれていた母がスーパーで焼き芋を買って来てくれたことがありました。子どもの頃からサツマイモは食べていましたし、普通の焼き芋だったのですが、そのときはとりわけおいしく感じられ、涙が出そうなほどでした。


ごはんの味がしないほど弱っていたのに、サツマイモだけは食べられた。そんな体験があってから、サツマイモが特別に思えるようになりました。



後藤さん そんな原体験があったのですね。私は小学生の頃にサツマイモにちなんだ思い出があります。両親が共働きだったのですが、親の帰りが遅いときは、よく焼き芋をつくって、食べていました。腹ぺこのときの焼き芋は、本当においしく、体に染みました。


鳥越さん そういう味って、記憶に残りますよね。しかも、自分でつくった焼き芋なら、格別だったでしょうね。


後藤さん 焼き過ぎると酸っぱくなるんですよ。でも、その酸っぱさもかみしめながら、「次はうまく焼こう」と焼き芋を繰り返していた思い出があります。



サツマイモ産地移住の経験も 現在も月1回は鹿児島に


後藤さん テレビ局を退社後、鹿児島でも有数のサツマイモ産地である鹿屋市に移住されたとうかがっています。どのような経緯だったのでしょうか。


鳥越さん 鹿屋市の「地域おこし協力隊」という制度を利用して移住させていただきました。特産品のサツマイモをはじめ、市の魅力を発信するPRレポーターを主な役割とする募集だったので、サツマイモ好きの自分の経験を生かせると応募しました。任期中、サツマイモを通してまちを盛り上げたいとの思いで活動を続けました。


印象に残る出来事には、農業高校で生徒さんたちが育てていた、鹿屋市のブランド芋「かのや紅はるか」の活用法を、芋菓子専門店のパティシエさんに相談したら、新商品を開発してくださり、商品化されたことがあります。


後藤さん 商品化はもちろん、人と人をつなげられたのもうれしいですね。


鳥越さん しかも、商品はその場限りじゃなく、今でもお店で販売されています。形として、人々の思いと共に残り続けているのがすごくうれしいです。



後藤さん 現在はどのように活動されているのですか。


鳥越さん 東京を拠点にアナウンサーの活動をしています。サツマイモに関するお仕事では、イベントの司会やトークセッションへの参加、さらにSNSなどでサツマイモの魅力を発信しています。サツマイモの世界は奥深く、勉強に終わりはないと思っています。なので、今も月1回は鹿児島に通っています。


基腐病の懸念の声を聞き

「行動ができないか」が契機


後藤さん サツマイモを通じて、今も鹿児島とのつながりを大事にされているのですね。私たちも南九州に根差した活動を大事に考えています。


私は、飼料・農園芸資材を扱うwelzoで2022年から役員を務めているのですが、そのころから、農家の皆さんのサツマイモ基腐病への懸念や窮状の声を多く耳にしたことから、何らかの行動ができないかと考えるようになりました。それが2023年にSSPを立ち上げるきっかけとなりました。



鳥越さん サツマイモ基腐病については、私も鹿屋市で活動させていただいた2022年ごろ、農家さんにお話をうかがったことがありました。現地で貯蔵庫を見学させてもらったのですが、基腐病の影響で、本来、そこにいっぱいあったサツマイモが全部だめになったと聞き、基腐病の怖さを突き付けられた思いでした。


ただ、それでも頑張ってサツマイモをつくりたいという農家の皆さんの姿もありました。そんな姿を見てきたので、サツマイモにまつわる活動を通じ、ちょっとでもサツマイモ農家の皆さんの力になれたらいいなという思いは持ち続けています。


後藤さん 私たちも同じような思いです。基腐病の知見を集積していくため、芋焼酎を手がける酒造関係者、大学、アグリテックベンチャーなどのみなさんと産学連携を進めてきました。参加団体数も当初5社・団体から、2025年4月現在までに14社・団体まで広がりました。


私たちは「サツマイモ経済圏」と呼んでおりますが、南九州におけるサツマイモは一つの経済圏を形成するほど、大事な農産物ととらえています。基腐病に関する知見を集めたり、防除法を考えていったりするのと並行し、消費者のみなさんに対してサツマイモの消費を喚起していく活動でも、南九州のサツマイモ経済圏を元気にしていきたいと考えています。


そうすることで、基腐病だけでなく、離農や高齢化などさまざまな課題にも直面する農業の現場に、わずかでも明るさを取り戻していきたい考えです。


鳥越さん 南九州の人にとって、サツマイモは日常の一部といえるほど特別な存在に思います。郷土料理として食べるほか、食卓に芋焼酎が並ぶことが多いです。


後藤さん サツマイモを食べる文化、飲む文化は、地域の文化そのものです。サツマイモ経済圏を守ることは、南九州の地域の文化を守っていくことにもつながると考えます。


「サツマイモの魅力発信したい」 

10月にトークセッションも


後藤さん 消費を喚起していくアプローチでは、昨年、「imo mamo FES」というイベントを福岡県のJR博多駅前の会場で開催しました。南九州の芋焼酎やサツマイモのスイーツを販売したのですが、想定を上回る来場で、やはりサツマイモへの関心や興味は高いんだなと肌で感じました。今後はさらにどうやって全国に広げていくかや、サツマイモの価値の新たな見せ方なども考えていきたいです。



鳥越さん サツマイモの見せ方を変えたいというのは同感です。「芋っぽい」といった言葉があるように、一部ではまだサツマイモの話は恥ずかしいというイメージもあると感じています。でも、サツマイモはおいしくて、栄養があって、いろんな食べ方や調理法があって楽しい。サツマイモって楽しいよって伝えていきたいです。


そして、魅力を伝えていく上では、農家のみなさんに寄り添った視点を大事にしていきたいと思っています。品種にまつわるストーリーとか、生産現場での工夫や苦労など、そういった背景まで伝えていけたら、消費者のみなさんにさらに響くのではと思っています。


後藤さん いろんなやり方でサツマイモを愛する人をどんどん増やしていきたいですね。SSPでは10月に福岡市内で開かれる異業種連携のイベントでトークセッションを開く予定もあります。23日に芋焼酎の試飲会、30日にサツマイモスイーツの試食会を併催するかたちで実際にいろいろ味わってもらおうと考えています。


SSPは今後、基腐病をめぐる知見の集積をはじめ、他産業との連携、サツマイモの魅力を発信する場の提供にも力を入れていきます。おいしいサツマイモがいつでもたくさん食べられる世界を目指し、南九州を起点にサツマイモの産業を盛り上げていきたい考えです。



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