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「べにはるか」を生んだ育種家が語る、さつまいもの底力 品種育種の第一人者が見据える、さつまいも産業の可能性

  • 4月23日
  • 読了時間: 6分

「べにはるか」の育種者として知られ、現在も農業研究を続けている農業技術者・山川理氏。「あまおう」や「とちおとめ」の親品種にあたるイチゴ「久留米49号」・「さちのか」の開発も行い、元九州沖縄農業研究センター所長という経歴ももつ。

現在は株式会社CULTA(以下CULTA)の育種技術顧問も務める山川氏に、CULTA代表取締役社長・野秋氏との出会いも含め、さつまいも産業の現状や農業研究の歴史など、幅広く話を聞いた。


プロフィール: 山川 理(やまかわ おさむ) 1947年静岡市生まれ。農業技術者。京都大学農学部卒業(育種学)。農林省九州農業試験場、農林水産省農林水産技術会議事務局、野菜・茶業試験場久留米、九州農業試験場などを経て、九州沖縄農業研究センター所長。退官後は農林水産先端技術研究所にて品種識別用遺伝子マーカーの開発に携わり、2014年に農業コンサルタントの山川アグリコンサルツ代表を開業。CULTA社育種技術顧問



さつまいもは「エネルギー収支がプラスの唯一の作物」


山川氏がさつまいもの可能性に本格的に気づいたのは、30代前半、農水省で行政官として畑作全般を担当していた時期だ。当時注目されていたバイオマス研究に関わる中で、さつまいもの特異な性質に着目した。


「単位面積あたりのエネルギー生産力が、さつまいもだけはプラスになる」と山川氏は言う。他の多くの作物は、栽培に投入するエネルギーより得られるエネルギーのほうがが少ない。しかしさつまいもは、10のエネルギーを投入すれば11や12が返ってくる。根に共生する微生物が空気中の窒素を固定するため、肥料が少なくても育つという特性もある。


「人類に何かあった時、必ずさつまいもに戻ってくる。さつまいもに頼らざるを得なくなる」。山川氏がさつまいも研究にのめり込んでいった理由は、この確信があったからという。


「ねっとり系」市場を切り開いた「べにはるか」の誕生


さつまいもの食用品種開発に着手した当時、市場の主流は関東の「ベニアズマ」に代表されるホクホク系だった。山川氏はここで、あえて別の方向を選んだ。将来の消費動向を考えたとき、クリームのような「滑らかでねっとりした甘さ」が好まれると予測したからだ。


ねっとり系の先駆けとして種子島の「安納芋」があったが、カロテン由来の味の癖、形の不揃い、貯蔵性の低さといった課題があった。山川氏は肉質のねっとり感を残し、形が良く、作りやすく、貯蔵性も高い品種の育成を目指した。その結果として生まれたのが「べにはるか」だ。


リリース当初、九州での評判は芳しくなかった。「ホクホクしていない」「ベタベタしてアンコに使いにくい」という声が多かったという。しかし山川氏は、最終的に消費者が評価するかどうかが重要だと考え、加工業者や生産者の協力を得てマーケットに送り出した。結果は市場が証明した。農家にとっても、「ベニアズマ」より作りやすく貯蔵性に優れた「べにはるか」は、扱いやすい品種として受け入れられていった。



「熟成」という発想の転換


「べにはるか」の成功を語るうえで欠かせないのが「熟成」という概念の導入だ。それまで農作物は「収穫したての新鮮なものが良い」とされていた。山川氏はこの常識を覆した。低温で一定期間置くことでデンプンが糖に分解され、甘みが増すというデータを示し、「熟成さつまいも」という価値を作り出したのだ。


この発想は、野菜試験場時代に果実の研究にも触れていたことから生まれた。異分野の知見を組み合わせるという山川氏の姿勢が、ここでも発揮されている。ベータアミラーゼという糖化酵素の活性が最も高い品種を選抜・育成するという科学的なアプローチが、「べにはるか」の「甘さ」を支えている。


焼酎・機能性食品・野菜ジュース——用途開発の広がり


山川氏の取り組みは品種開発にとどまらない。さつまいもの「使い道」を同時に広げることにも力を注いできた。当時「芋臭くて都会では売れない」と言われていた芋焼酎のイメージを変えるため、霧島酒造とともに品種開発に取り組み、広く知られる銘柄の誕生につながっていった。

 

その戦略は明快だった。天然色素用途(紫やオレンジ系さつまいも)、焼酎用途(フルーティーな新品種)、そして食用品種(ねっとり系の「隠し玉」)——この3本柱で産業全体を再設計したのだ。「品種を作るだけでなく、使い道も一緒に作る」という姿勢が、さつまいも産業の裾野を大きく広げてきた。

 

イチゴ研究の系譜を受け継ぐ——株式会社CULTAとの出会い


山川氏が育種技術顧問を務めるSSPコンソーシアムのメンバーでもある株式会社CULTA。同社代表取締役社長・野秋氏が山川氏の著書に出会ったことが、その始まりだったという。


「もともと画像解析・リモートセンシングの専門だった野秋さん(静岡出身)が、農業をやりたいと言ってきた。品種を作るなら日本が世界に誇れる技術を持つ作物——それがイチゴとさつまいもだと私は言いました」と山川氏は振り返る。


世界への展開を見据えたとき、日本の技術力が世界水準で突出している作物として、山川氏がイチゴとさつまいもを挙げる理由は明快だ。米や小麦、大豆では世界市場への参入は不可能に近い。しかし日本のイチゴ研究は、独自の系譜と品種群を持ち、世界に類を見ない蓄積がある。



海外展開を前提にしたイチゴ品種には、日本のコールドチェーンを前提とした「柔らかくてジューシー」な特性は通用しない。道路事情が悪く、冷蔵設備も整っていない環境で流通させるには、硬さと貯蔵性が不可欠だ。山川氏がCULTAに伝えたのは、そうした「前提条件を変えると新しい品種が生まれる」という発想の転換だった。


「赤くなってすぐに食べると美味しくない。しばらく置いて追熟させると、えぐみが抜けて甘さだけが残り、しかも硬さも保たれる。イチゴを追熟させるなんてそれまでタブーでしたよ」と山川氏は笑う。この「常識の否定」こそが、CULTAの品種開発哲学の根幹にある。


山川氏はCULTAに対し、品種の形と栽培法だけでなく、経営の考え方まで幅広く伝えてきたという。「現地で手に入る材料を活用して栽培技術を作るように。よそから入れたら高いし、何かあったら供給がストップされる。現地で手に入るもので農業をやっていけば、周りに何があっても影響されない」——この自律型農業の思想が、CULTAの事業設計にも根付いている。


消費者とともに、息の長いビジネスへ


山川氏は、さつまいも産業の持続性について一貫したメッセージを持っている。生産者だけが利益を得るのではなく、消費者が「この商品でこの価格なら買いたい」と思える関係を作り上げることが重要だという。


「農業は、消費者と何十年、何百年と付き合っていく息の長いビジネス」と山川氏は言う。一度離れた消費者を呼び戻すのは難しい。目先の利益より、継続して選ばれ続けることを優先する視点は、産地や品種を問わず、さつまいもに関わるすべての人に向けられたメッセージでもある。南九州のさつまいも産業を盛り上げようとするSave The Sweet Potato(SSP)にとっても力強いエールとなった。


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