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会社の屋台骨を支える「芋けんぴ」。だからこそ、新鮮なコガネセンガンにこだわる:澁谷食品株式会社

澁谷食品株式会社は高知県に本社を置き、半世紀以上にもわたりサツマイモ菓子だけを作り続けている食品メーカーです。澁谷食品の商品を代表するのが「芋けんぴ」。生産量は全国シェアの50%を誇り、自社ブランドだけでなく小売各社のプライベートブランド商品なども手掛けています。鹿児島県鹿屋市に大きな生産工場を持つだけでなく、近隣のサツマイモ農家とともに苗づくりや土づくりにも長年取り組んでいます。


同社の浅井秀人様及び中尾幸一様に、サツマイモ菓子メーカーから見たサツマイモ農業の現状について話をうかがいました。


(シブヤグループWebサイトより写真引用)




――澁谷食品の事業についてお聞かせください。


浅井氏:1959年に創業し、サツマイモそのものの生産から、サツマイモを原料とする菓子の製造・販売までを手掛けています。


農業生産法人ヤゴローフーズをグループ企業に持ち、圃場での生産に取り組んでいます。特に力を入れているのは育苗です。当社のハウスでウイルスフリー苗と種芋から苗を育てており、自社の圃場に植えるだけではなく契約農家の皆さんに配布しています。


主力商品は「芋けんぴ」で、創業以来、当社の事業の柱となっています。芋けんぴの他にも芋チップやスイートポテト、製菓や製パンの材料となる芋ペーストやおさつダイスなどを取り扱っており、最近では「芋屋金次郎」というブランドで全国に直営店も展開しています。芋屋金次郎は人気も高く、直接お客様の声を聞くことができる点でもありがたい存在です。



――原料となるサツマイモはどのように調達されているのでしょうか。


浅井氏:ほとんどは契約農家さんから仕入れています。ヤゴローフーズの圃場は6ヘクタールほどありますが、グループ全体の生産量からみればわずかな割合です。

もともと、九州ではサツマイモの栽培が盛んでしたが、でんぷんの材料や芋焼酎の原料として消費されることが多く、加工用原料に回るものは少なかったようです。当社では40年ほど前に鹿児島県鹿屋市に工場を建設し、それ以来、地元での加工用サツマイモの調達を本格的にスタートさせ、現在に至っています。農家さんの畑をこまめに訪問し、人間関係を大切にしながらここまで続けてきました。


芋けんぴの原料は、鮮度がなにより大切です。青果用や焼酎用の場合には、収穫したサツマイモをしばらく貯蔵保管しても問題ないですが、芋けんぴの場合は糖度が上がってしまうと加工しにくくなるのです。できるだけ工場の近隣で栽培されたサツマイモを仕入れたいと考えています。


――原料に使われているサツマイモの品種を教えてください。


中尾氏:当社が製造している芋けんぴはすべて、コガネセンガンを使用しています。薄切りけんぴや芋チップ、スイートポテトなどでは、シロユタカ、金時、種子島紫を使っています。来年度は、シロユタカの代わりに「みちしずく」を使う計画もあります。


――コガネセンガンは特にサツマイモ基腐病に弱いとされる品種です。影響が大きかったのではないでしょうか。


浅井氏:4年ほど前から、基腐病の影響がはっきりと数字に現れ始めたと記憶しています。契約農家さんのなかには、全滅してしまったという方もいらっしゃいました。普段の年の半分程度しか収穫できなかった方も多かったです。2020年頃が一番大変だったかと思います。昨年(2022年)は天候も比較的良かったですし、病気への対策方法などもわかってきたため、生産量は持ち直しました。しかし、この数年ずっと続いてきた被害の影響で農家さんたちには疲弊が蓄積しています。厳しい状況になっていると感じています。


以前であれば、契約農家さんの収穫量が十分でなくて原料が足りないというときには、他の農家さんなどからスポット契約で仕入れることもできました。この数年は、それも難しい状況です。コガネセンガンの作付面積が大幅に減っていて、生産量そのものが減少しています。



中尾氏:基腐病の対策として、早い時期に植えて早い時期に収穫を済ませる傾向になって来ています。その影響で、11月中旬の時点ですでに当社の契約農家さんたちの畑にはイモがありません。以前は12月頭まで加工工場を稼働させていましたが、今年はもう工場のラインは止まっています。そういった影響も出ていますね。


――サツマイモ基腐病への耐性が強く、味などがコガネセンガンに近いとされる「みちしずく」のような新品種が登場しましたが、芋けんぴの原料を切り替える予定はありませんか。


浅井氏:たしかにコガネセンガンは基腐病に弱く、契約農家さんに作ってほしいと依頼するのが難しいところもあります。病気のリスクの低い品種を作って、確実に収穫したいと考える方が多いことはわかっています。しかし、コガネセンガン以外の品種を使って芋けんぴを作るのは、いまのところ現実的ではありません。


品種が違えば、イモとしての特徴がどこかで違ってきます。たとえば、加熱することで変色しやすかったり、でんぷんや糖のバランスだったりが少しずつ異なります。そうした違いは、当社の芋けんぴを作る上では見過ごせない違いなのです。コガネセンガン以外で作ったものが当社の品質基準をクリアするのは、現状では難しいと考えています。


農家さんにとっては、コガネセンガンの生産にはリスクがありますし、病気の対策をするにはコストが余分に必要です。それでも作っていただける農家さんに対しては、買取単価を高くするなどして対応させていただいています。


――サツマイモ基腐病への対策として、どんなことをされてきましたか。


浅井氏:いろいろな対策を試しましたが、何をすれば確実に効果が出るのか、よくわからない状況だと思っています。ただ、3年ほど前から始めた土作りには手応えを感じています。農薬に頼りすぎず、自社製の堆肥や促進剤を使って土壌改良をした畑で取れたイモは、収量も形状も良くなっているようです。地道に続けてきた効果が出始めたのかなと思います。


――堆肥づくりにも取り組まれているのですね。


浅井氏:倉庫を利用して堆肥をつくっています。宮崎県内の農場から調達した牛糞や米ぬかなどを使って、月に1度の切り返し作業をしながら半年ほど掛けて熟成させます。収穫が終わった11月から12月上旬ごろまでに畑に撒くようにしています。


基腐病の対策として言われていることのひとつに「残渣を畑に残さない」というのがありますが、残渣処理を早い時期に行うという観点からも、収穫後にすぐ堆肥を入れることには意味があるように思います。これだけで基腐病が完全に抑えられるような対策ではないかもしれませんが、壊滅的な発生を抑えることはできるのではと期待しています。


自社製の堆肥は26トンほどつくりました。倉庫のサイズに限度があるため、これ以上をつくるのは難しいかもしれません。自社の圃場で使う分をまかなうにも足りない量ですが、ノウハウは農家さんたちとも共有していきたいと考えています。


サツマイモの栽培を毎年行っている圃場では、どうしても連作障害などが発生して土壌が疲弊しています。土作りをやっていくことは即効性のある手法ではありませんが、10年先、20年先を見据えて取り組んでいこうと考えています。何十年後もコガネセンガンの栽培を続けられるようにしていかなければ、当社の芋けんぴを続けていくこともできませんから。





――澁谷食品さんにとって、芋けんぴはとても重要な存在なのですね。


浅井氏:芋けんぴは当社にとって、なくてはならない存在です。先代社長から今日まで当社が続けてこれたのは、芋けんぴがあったからこそ。スイートポテトや、製菓・製パン用の芋ペーストやおさつダイスなども大切な商品ですが、当社の根幹にあるのは芋けんぴだと思っています。その製造・販売を続けていくためにも、コガネセンガンの安定生産はとても大切です。


いま、基腐病による疲弊などの影響で離農される農家さんが増えています。特にサツマイモづくりでは苗作りが大変だと言われています。当社で育てた健康な苗の提供などを通して、少しでも農家さんたちの手助けになればと思っています。




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