鹿児島県鹿屋市の小鹿酒造は、周辺の4つの小さな酒蔵が集まって協業組合として1971年に発足しました。そこで原料として使用するサツマイモを一元管理するために設立されたのが、農業法人(有)小鹿農業生産組合です。サツマイモの安定調達と地元農家との共存共栄のために活動しています。
前回、栽培シーズンが始まる前にお話をうかがった際には、サツマイモ基腐病の対策として土壌改善以外は目立った効果が見られなかったと話されていました。
2023年のサツマイモ基腐病の発生状況はどうなっているのでしょうか。あらためて今年のサツマイモについてお話をうかがいました。
(取材時期:2023年9月下旬)
いまのところ収穫量は昨年よりも多く品質もよい
今回の取材では、同法人の代表取締役の岩下圭介さんと、取締役会長の東光哉さんにお話をうかがいました。
「今年は昨年よりも好調です」と話してくれたのは、岩下さん。特に3月〜4月に植え付けをしたサツマイモは収穫量も多く、焼酎の原料としても優秀だそうです。
「今年の前半は天候が良かったので、その影響もありますね。アルコール分もデンプンも多くなっていて、サツマイモの状況は改善されています」(岩下さん)
一方で、遅い時期に植えたサツマイモは悪天候の影響が心配されます。台風が直撃したり、日照不足も続いたため、9月までの収穫ほどは好調ではないだろうと不安視しています。
台風だけでなく、ゲリラ豪雨の被害も出ています。「まるで砂利が降っているような猛烈な豪雨が降った圃場があります。豪雨の被害があった圃場では、そのしばらく後から病気が拡大しているようです」と岩下さんは言います。
いままで発生していない圃場でも被害が出始めている
岩下さんたちの印象では、サツマイモ基腐病の発症地域はだんだんと場所を移動しているとのこと。以前は病気の出ていなかった畑で発症するようになったり、逆に昨年までは被害が大きかった畑で今年は発症していないということもあるようです。
この数年、サツマイモ基腐病と向き合ってきた圃場では、排水性を改善したり土壌改良をしたりといった工夫を重ねてきました。そうした工夫が、病気への抵抗力を培っているのかもしれません。これまで基腐病がそれほど問題になっていなかった地域では、土壌改良などの根本的な対応があまり十分には行われていなかったという可能性があります。
サツマイモをおびやかす病気は、基腐病だけではありません。今年は軟腐病(なんぷびょう)や、つる割病などの病気も出ています。さらに「ドブクサレ病」と呼ばれる新しい病気も出てきたといわれており、注意が必要です。
病気だけではなく獣害の問題も切実です。「イノシシによる被害が増えています。畑の周りを柵で囲っても掘り返してしまい、根こそぎ食い荒らされてしまうんです」(東さん)。イノシシは匂いに敏感なので、圃場の周りに刺激臭のする資材を撒くなどの対策を強化したいとのこと。
手間と収穫量はトレードオフ
サツマイモ基腐病の対策はこの数年でいろいろと提案されていますが、簡単に対応できるものばかりではありません。生産者の高齢化や人手不足という問題もあり、新しい手法をなんでも試すのはハードルが高いのも実情です。
それでも、自分たちで工夫して対策をする生産者のおかげでいい焼酎ができると岩下さんは言います。
「手間ひまとコストをかけて生産する農家さんは、収穫量も多いし品質も高いです。そういう農家さんたちのおかげで、いつどのくらい原料=芋が納入されるか予測できて、焼酎の生産計画も立てやすくなります」(岩下さん)
手間やコストと収穫量はトレードオフの関係にあるようです。安定して品質の高い原料サツマイモを仕入れるため、生産者とのコミュニケーションを密にすることが大切だといいます。
サツマイモ基腐病は、収穫の時期が遅くなるほど感染しやすいという特徴があります。また、焼酎の原料として使われている「コガネセンガン」は植えてから150日間ほどの生育日数を必要とします。
そのため小鹿農業生産組合では、「コガネセンガン」の植え付けを3〜4月に行い、8月前後に収穫時期を迎えるような栽培をしています。10〜11月ごろに収穫時期を迎えるものは、基腐病に強い品種である「みちしずく」を選んでいるそうです。
東さんたちが今年栽培している品種は、コガネセンガン、みちしずく、紅まさりの3種類で、それぞれを同程度の作付面積で栽培しているとのこと。「本当はコガネセンガンを100%使って焼酎を仕込みたいところですが、なかなか現実的には難しい」と東さんは言います。
「焼酎の原料として使い続けているコガネセンガンの栽培を完全にやめてしまうことはありません。みちしずくを原料とした焼酎と、コガネセンガンを原料とした焼酎をブレンドすることで、味をなじませた商品を提供していきたい」(岩下さん)
「みちしずく」は焼酎用として開発された品種で、基腐病にも強く安定生産が期待できますが、仕込んだ焼酎の味は「コガネセンガン」でつくられた焼酎と同じというわけにはいきません。地元で長年愛されてきた焼酎を楽しんでもらうため、味や風味が変わらないよう工夫を凝らしているのです。
生産農家と酒造メーカーが一丸となって基腐病に立ち向かい、工夫と試行錯誤を重ねながら焼酎の味と文化を守り育てています。
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