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「関係者が協力してサツマイモ基腐病の被害を乗り越えたい」芋焼酎の風味を支える小鹿農業生産組合

更新日:2023年2月2日

大隅半島のほぼ中央に位置する鹿児島県鹿屋市。西側は錦江湾に面しており、シラス台地の土壌を生かしたサツマイモの産地として知られています。南東部に広がる国見山地(肝属山地)のふもとに、鹿児島焼酎の酒蔵、小鹿酒造があります。

小鹿酒造は、周辺の4つの小さな酒蔵が集まった協業組合として、1971年に発足。鹿児島焼酎「小鹿」など、さまざまな芋焼酎を製造・販売し、地元の方々を中心に親しまれています。1994年には、農業法人(有)小鹿農業生産組合を設立。原料として使用するサツマイモを直営・契約を含めて一元管理しており、サツマイモの安定調達と地元農家との共存共栄のために、活動しています。


今回は、同法人で代表取締役を務める東光哉さんに、焼酎酒造にサツマイモを納品する組合として、サツマイモ基腐病の現状や課題についてうかがいました。


できることは何でもやった。それでも効果がない

——サツマイモ基腐病が発生しはじめた頃の状況を教えてください。


2018年頃から発生していたと思います。はじめはちょっとした病気が出ているという程度で、さほど気にしていませんでした。しかし翌年から一気に広まり、全滅する勢いにまで拡散してしまいました。それまで年間で2〜3トンほどの収穫量だったのですが、その年は全体で1トンにも満たない状態で、それ以外のイモはすべて基腐病にやられてしまったのです。まさかそんな病気があるということも知らない状態だったので、非常に驚いたのを覚えています。


私たちは焼酎酒造メーカーを親会社に持つ組合です。芋焼酎の原料である「コガネセンガン」という品種のサツマイモを生産しなくてはなりません。ですが、コガネセンガンは他の品種と比べて、サツマイモ基腐病に弱く影響を受けやすいのです。収穫量が激減してしまい、焼酎の製造にも影響を与えかねない状況に陥っています。




——サツマイモ基腐病が発症してからどういった対策に取り組みましたか。


さまざまな対策に取り組みました。農薬の殺菌剤をまくことで菌を殺せないかと、クロルピクリン(ドジョウピクリン)やバスアミド微粒剤などを使ってみました。水はけの悪い場所では、サツマイモ基腐病の発症率が高いので、畑の水はけがよくなるように工夫もしましたが、いずれも効果はありません。


プラウという鋤を使って、通常よりも深く掘り返して耕すことで、酸素の届かない土壌に菌を押し込み殺菌できないか試しましたが、ダメでした。バイオ苗という、無菌状態で生育された苗を使うことも推奨されたので試してみましたが、かえって菌に弱いのか、あまり効果がありませんでした。


今年はこれらに加えて、根元にカメムシがいるイモでは発症しやすいようなので、カメムシに対する殺虫剤も試しています。


菌に汚染されたイモを畑に残しておくと、次のシーズンにも畑が汚染された状態になってしまうため、出荷しない不用な残渣を畑に残さない方がよいとも言われています。ですが30町歩で生産しているため、残渣を取り切るには相当な労力がかかり、ほぼ不可能です。


親会社であるメーカーがコガネセンガンを必要とするため、生産組合としてできることは何でも試しました。ですがこれといった効果は得られず、抜本的な対策には取り組めていないのが現状です。


一方で、有機栽培をしている畑ではサツマイモ基腐病の被害が比較的少なくなっています。もしかすると良い土壌には、基腐病の菌を抑えてくれる善玉菌がいるのかもしれません。しかし、有機栽培はそれ自体がとても労力のかかる栽培方法なため、少ない面積ならともかく広大な面積で取り組むのは難しいのです。


また焼酎メーカーに納品するイモの畑には、土壌の状態の良し悪しに関わらず、殺菌剤を打つ必要があります。焼酎の風味を損ねる菌の繁殖を防ぐためです。殺菌剤をまくことで、善玉菌も殺してしまうため、殺菌剤への耐性があるサツマイモ基腐病の菌が繁殖しやすい環境をつくり出してしまったのかもしれません。


——2022年は被害が少なかったと聞きました。


2022年は台風14号が9月中旬に上陸するまで、発症が少なかったように感じます。実際それまでの収穫量に対して、1.5倍には回復したと思います。ですが、それでも例年の6割程度の収穫量です。台風上陸までの間、降水量が少なく梅雨も短かったことが関係しているのかもしれません。




焼酎の価格高騰や販売停止などが懸念

——焼酎業界への影響はどのような状況ですか。


芋焼酎の原料となるコガネセンガンの収穫量が激減し原料が確保できず、どのメーカーも苦戦しているようです。去年あるメーカーではイモの購入価格を引き上げました。農家にとってはありがたいのですが、他のメーカーもそれに合わせて価格を引き上げないと、イモを確保できなくなる恐れがあり、どのメーカーも価格を引き上げているようです。他の原材料も高騰するなかでイモの価格も上がってしまうと、焼酎自体の値上げや販売停止などが懸念されます。


一方でサツマイモ基腐病に強い品種の開発も進んでいます。「みちしずく」という品種は病気の発症が少なく、焼酎の原料として開発が進んでおり、各メーカーでもみちしずくを使った焼酎の試作も行われています。ですが、品種が違えば当然焼酎の風味が変わります。これまで長く親しまれている焼酎の風味にはコガネセンガンが欠かせません。来シーズンは私たちの畑でもみちしずくの生産も計画していますが、やはりメインはコガネセンガンですので、多くても3割程度の生産にとどめる予定です。


多くの農家は、サツマイモ基腐病の発症以来、「イモがなくなる」と警鐘を鳴らしてきました。しかしメーカーの多くは早期に対策に取り組まず、被害が拡大してから驚いて動き出したような状態です。早めに対策に取り組めば、被害を抑えられたかもしれません。


関係者の協力体制が事態収拾へのカギ

——来シーズン取り組む対策について教えてください


やはり土作りが大切だと思います。土壌を良くすることで善玉菌を増やしてあげることが、イモにとってもよいと思うのです。それに加えて、みちしずぐなどのサツマイモ基腐病に比較的強い品種の生産にも取り組む予定です。ですが抜本的な対策ではないため、試行錯誤が続くことが予想されます。


——読者の方に向けて伝えたいことはありますか。


これまで芋焼酎の原料であるコガネセンガンについて話してきましたが、焼き芋などでよく使われる「紅はるか」もサツマイモ基腐病に弱く、私たちが口にする品種の多くが影響を受けています。ここ数年は収穫量が少ないため収入が少なく、対策のために経費がかかっており、どの農家も赤字状態です。


多くの農家で、他の野菜を栽培して収入を確保するほか、サツマイモ農家を辞める人もでてきています。


しかしながら特効薬の開発が進んでおらず、抜本的な対策に取り組めていません。助成金の交付もありましたが、それだけでは太刀打ちできません。コガネセンガンという品種を絶やさないためにも、さまざまな機関や企業が協力して、この事態を乗り越えられるよう取り組んでほしいと思います。

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