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「目の前の異変に状況もわからず怖かった」サツマイモ農家・永山さん

更新日:2023年8月28日

大隅半島の中央部に位置する鹿児島県鹿屋市でサツマイモ農家を営むナガヤマさんが、父親から家業を継いだのは17年ほど前。機械の導入により、それまでの倍以上の収穫量にも対応できるようになったことで専業農家に転身し、芋焼酎の原料となる「コガネセンガン」の栽培に取り組んできました。サツマイモ栽培を続ける中で異変に気づいたのは、8年ほど前のことでした。




年を追うごとに被害が拡大。最初は原因がわからなかった

——サツマイモ基腐病が出始めた頃の状況を教えてください。


隣の農家さんが栽培していたサツマイモが、まるで除草剤をまいたような状態になっていました。最初はちょっとした異変だろうと思っていましたが、翌年には自分の畑でも同じ状態のサツマイモが見られるようになり、年を追うごとにどんどん広がっていったのです。


最初のうちこそ収穫量への影響は少なかったものの、次第に周りの農家さんの畑にも出はじめて、目の前の異変に何が起こっているのかわからず、みな怖くなっていきました。サツマイモを17年栽培するなかで、こういった大きな病気を経験したことはありませんでした。県の試験場に持っていって調べてもらいましたが、わからないと言われ途方に暮れたのを覚えています。


2018年頃から県内で一気に汚染が拡大したことで、ようやくさまざまな機関が対策に乗り出すようになりました。汚染の広がりには頭を抱えますが、さまざまな機関が対策に取り組むようになって、自分だけではないんだと、正直ほっとした気持ちになりました。


試行錯誤するも効果がなく、やる気を失うことも

—— 従来の栽培とサツマイモ基腐病が発症してからの状況では、どのように異なっていますか。


それまでは16町歩ほどの畑で、焼酎の原料になるコガネセンガンだけを栽培していました。例年では3月中旬から植え始め、6月にかけて植え付けしていきます。その後早く植えたイモを収穫しはじめるのが8月ごろです。サツマイモは畑に長く置いておくほど、それだけ収穫量が増える特性があります。収穫期間が短いと作業も大変なため、買取価格の変動や焼酎酒造メーカーの仕込みの状況を見ながら、11月にかけて徐々に収穫していきます。


ですが、サツマイモ基腐病の感染が拡大してからは、早い時期のイモでは発症が少ない一方、時期が遅れるほどそれだけ発症が広がっていくような状況でした。とくに被害が大きいのは収穫量が多くなる9月以降なので、それだけ収穫量の減少が著しく、それまで年間で4トンほど収穫できていたものが、2トンにも満たない状態にまで落ち込んでしまったのです。こうした状況で栽培すればするだけ発症してしまうので、とくに被害のひどい畑を返却するようにして、最盛期の7割程度にまで面積を減らしました。


——サツマイモ基腐病が発症してからどのような対策に取り組みましたか。


まずは殺菌剤で菌を殺す作業に取り組みました。他の病気が出たときにも、同じようにまず取り組む対策です。多くの病気ではそれで被害が抑えられるのですが、サツマイモ基腐病の場合はそうはいきませんでした。はじめこそ効果が見られたものの、殺菌剤をまいた畑で一度発症してしまうと、一気に被害が拡大して、かえって手に負えない状態になってしまったのです。


それからバイオ苗という無菌状態で生育された苗を購入して使うようにしました。それだけでも足りないため、いまではそのバイオ苗を消毒してから使うようにしています。またそれまでは、畑の端の部分にも土を盛り上げて枕地という畝(うね)をつくっていたのですが、水はけが悪い場所での発症率が高いことが徐々にわかり、これもやめるようにして水はけをよくするようにしました。


さらにサツマイモばかり植えていた畑を休ませるために他の作物を植えたり、機械を使うたびに洗ったりと、できることは試行錯誤したのですが、なかなか効果が得られない状況が続いたのです。これまでとは違った作業や新たな農薬を試すなど、労力も経費もかかる一方、収穫量がどんどん減っていきました。さまざまなことに取り組んだにもかかわらず、発症してしまった様子を見ると、やる気が失せてしまう心地さえしました。




わずかな収入も対策の経費に消える

——サツマイモ基腐病が発生することで最も困ることはどういったことでしょうか。


やはり収入が減ることだと思います。収入が例年の半分以下になってしまい、わずかな収入も殺菌剤や機械を動かす燃料などの経費で消えてしまうのです。通常以上に手間暇もかかっており、サツマイモを辞める農家さんも多くなってきています。この状況を持ちこたえるのはなかなか難しいと思います。


またサツマイモ基腐病の怖いところは、汚染が周囲の畑に拡大していくことです。ガビのような菌のため胞子が拡散するのか、ある畑で発症すると次の年には隣の畑でも発症してしまいます。自分のところで発症したものが、隣の農家さんの畑に菌を移してしまうことには申し訳ない気持ちになり、逆に隣の農家さんの畑で発症したらここも駄目なのかと落胆するしかありません。


サツマイモ基腐病が出始めた頃は、個々人でさまざまに試行錯誤していましたが、一向に効果が得られませんでした。最近は県全体で対策に取り組むようになったことで安心する一方、コロナ禍でマスクをみんながするようになったのと同じように一斉に消毒をするようになり、それに従わないと居場所がないような状態です。




耐性のある品種に替える苦渋の決断

——来シーズンにはどのような対策に取り組む予定ですか


まずはバイオ苗を使う予定です。それをさらに消毒して無菌状態を維持すれば、早い段階では発症する前に少し収穫できます。収穫時期もできるだけ早く夏の間にできるだけ収穫する予定です。


また例年以上に畑をよく耕すようにもしています。耕うんをまめにしている農家さんでは被害が少ないと聞いたので、今シーズンから試しています。畑を耕すことで保菌した残渣が減るため、多少効果があるようです。これまでは、すべての畑での収穫が終わってから耕うんしていましたが、収穫した直後からまめに耕すようにして、12月の時点ですでに3,4回ほど取り組みました。水はけも影響するため、土を細かく砕くようにしています。サツマイモ基腐病が発症した畑では、土が水分を多く含んでいるのか、持つと重たいのです。


さらに私の畑ではつくる品種を変えて、コガネセンガンの栽培を辞め、病気に比較的強いみちしずくや紅まさりを作る予定です。これだけさまざまな対策に取り組んでも、コガネセンガンはどうしてもサツマイモ基腐病に弱く発症してしまいます。


本来であれば収穫量のことや焼酎メーカーに納品することも考え、コガネセンガンを作りたいのですが、菌をこれ以上他の畑への拡散を防ぎ、周りの農家さんへの迷惑にならないよう、他の品種をつくることにしたのです。焼酎酒造メーカーさんはコガネセンガンを必死に探していますが、生活がかかっている以上そこに頼り切りになることはできません。面積を減らしたり、短い収穫期間に取り切れるだけしか栽培しないなど、しばらくは縮小していくほかないようです。


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