芋焼酎ベースのピンク色スピリッツで話題 「ミス薩摩焼酎」の挑戦の理由と思い
- R S
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設立3年目を迎えた「みんなのサツマイモを守るプロジェクト-Save The Sweet Potato-」(SSP)。
節目に合わせ、ゲストとサツマイモ産業のいまやこれからを語る連載の第2回。今回は、芋焼酎の聖地・鹿児島県の出身で、焼酎やサツマイモを中心にした商品の企画・研究開発を手がける「LINK SPIRITS(以下、リンクスピリッツ)」を立ち上げた経営者の冨永咲さんです。同社は、ロゼワイン酵母を使った本格芋焼酎ベースのピンク色のスピリッツ「NANAIRO」で話題を集めています。
経営者としてサツマイモ業界にかかわる冨永さんの思いと今後のビジョンとは――。SSP代表の後藤基文(welzo取締役)と語り合いました。

冨永咲(とみなが・さき)さん 略歴
鹿児島市出身。大学卒業後、神奈川県の地方新聞社で広告の企画営業に従事。小さい頃に祖父が大好きな芋焼酎のお湯割りを作っていた原体験が焼酎との出会い。社会人になって初めて飲んだ「安田」で焼酎のイメージが変わり、芋焼酎ファンに。ベンチャー企業などを経て鹿児島にUターン後、2022年6月にLINK SPIRITS株式会社を創業した。

後藤基文(ごとう・もとふみ)さん 略歴
飼料・農園芸資材を扱う商社の株式会社welzo(ウェルゾ)取締役。大手コンサルティング会社で中小企業の事業再生、M&A業務に従事したのち、官民ファンドの地域経済活性化支援機構に転職。2017年にwelzo社外取締役への就任を経て、2022年から現職。経営企画やブランディング、新規事業などの責任者を務める。
芋焼酎・聖地の鹿児島出身 ミス薩摩焼酎への選出も
後藤基文さん(以下、後藤さん) 冨永さんが経営している「リンクスピリッツ」は芋焼酎の可能性を探る取り組みに力を入れていらっしゃいます。昔から焼酎への思い入れは強かったのですか。
冨永咲さん(以下、冨永さん) 私は鹿児島市で生まれ育ったのですが、大学への進学で神奈川県に移り、卒業後、神奈川県の地方新聞社に就職しました。広告営業をしていたのですが、それで目上の方との会食の場などで、私が鹿児島出身と知ると「焼酎は飲めるの?」とよく聞かれ、そこから芋焼酎を飲み始めるようになりました。焼酎を飲むことで相手に興味を持ってもらえて、相手も好きなら「共通言語」にもなる、と考えたのです。2016年には、鹿児島県酒造組合が主催する第2代ミス薩摩焼酎に選んでいただくことにもなりました。

後藤さん それはすごいですね。芋焼酎熱がどんどん高まっていった一方、リンクスピリッツの起業にはどのようにつながっていったのですか。
冨永さん 第2代ミス薩摩焼酎に選んでいただいたことで、そこから作り手のみなさんとつながったことも大きかったです。蔵ごとの個性や作り方の違いなどについて視野が広がっていきました。同時に、鹿児島にとって、芋焼酎の文化は、本当に大事なものなんだということにあらためて気づかされていきました。
そうした中、転職などを経て2020年に鹿児島にUターンしたのですが、その頃がちょうど新型コロナウイルス感染拡大の時期と重なっていました。当時、アルコールの提供が世の中的に「好ましくない」と思われるようになって、飲食店の休業が相次ぐ中、まちが沈んでいくようでした。
一方で当時、家飲みの習慣が広がっていったと思うのですが、オンラインの流通が日本酒は選択肢がさまざまあったのに対し、芋焼酎はほとんどなくて、「一般消費者向けの流通で何かできないか」と思ったことが大きなきっかけになりました。

後藤さん われわれSSPは、2018年秋に国内初確認され被害が広がっていった「サツマイモ基腐病(もとぐされびょう)」への知見を集め、生産者を支援する目的で2023年に設立されました。
ただ、基腐病の影響だけが理由ではなく、冨永さんがおっしゃったようにコロナ禍で芋焼酎の需要や消費がしぼんでしまったことでも、南九州の”サツマイモ経済圏”は大きな打撃を受けており、そのことにも課題意識を持っていました。
そのため、焼酎原料をはじめとしたサツマイモ農家の皆さんを支援し、鹿児島や宮崎といった南九州のサツマイモ経済圏を再び活性化していきたいという思いも設立当初から持ち続けて活動しています。
冨永さん そうしたお考えをお持ちだったのですね。私も、芋焼酎をなんとか次の時代につないでいきたい、と基腐病やコロナ禍で大変な時期だった2022年ごろにリンクスピリッツを立ち上げました。マーケットは厳しい環境にありましたが、課題が多いほど可能性も大きいと考えたのを覚えています。

「NANAIRO」で新しい接点を 「まずは目にとめて、味わって」
後藤さん 貴社が手がけた中で、ロゼワイン酵母を使った本格芋焼酎ベースのピンク色のスピリッツ「NANAIRO」が話題になりましたが、どのように企画を進められたのでしょう。
冨永さん 同じ鹿児島県に本拠を構える若潮酒造(志布志市)と提携して取り組みを進めました。でん粉原料で主に使われていた品種「コナイシン」を使うアイデアがあったので、実際にサンプルを試してみると、フルーティーで香りもよく、今までにない印象を感じました。
芋焼酎のイメージや先入観を変えていきたいという思いから、紫芋の天然色素で華やかなピンクに色付けしました。まずは目にとめて、味わって、「焼酎っておいしいんだ」と思って好きになってもらいたい、と。

後藤さん 芋焼酎は近年、だいぶ変わってきましたが、世代的に比較的ハードルが高めなイメージを持つ人は少なくないと思います。NANAIROはそういう意味では新しい接点を生み出そうとした試みでもあった訳ですね。
冨永さん 商品開発の例ではほかに、サツマイモ農家、焼酎蔵、きわめて貴重な木樽蒸留器の職人さんをおつなぎして、原料のサツマイモから焼酎の仕込み、蒸留までの工程を弊社で橋渡しさせていただいた本格焼酎「音環(おとわ)-OTOWA」があります。
業界や現場の垣根を超えておつなぎすることで本格焼酎の可能性を引き出そうとした試みです。これは、ありがたいことに海外でも支持をいただき、世界最高峰の酒類コンクール「IWSC2025」でシルバーメダルをいただくことができました。
人と人をつなぐという文脈では、消費者のみなさんと現場をつなぎたいという思いもあって、使用するサツマイモの苗植えや醸造作業を一般の方々に体験してもらう催しも開きました。生産や製造の現場を知ってもらい、もっとサツマイモや芋焼酎に愛着を持ってもらえればいいなという思いからです。地道ですが、現場の方々も喜んでくださるので今後も機会があれば続けていきたいです。

後藤さん さまざまなアプローチで消費者を増やしていくことは農家のみなさんや生産・製造現場を守ることにもつながっていきますよね。特に現代の農業は高齢化や人手不足、さらにそうしたことが原因による離農者の増加と、多くの課題を抱えています。SSPでは、基腐病の防除の知見集積に向けて産学連携を進めていますが、同時にいかに消費者を増やしていくかについても知恵を絞っているところです。
10月には、福岡県でベンチャー起業家やイノベーターの方々に向けて、サツマイモの価値や魅力を知ってもらうトークイベントも開催予定です。その中では、南九州の芋焼酎をテイスティングしてもらう場も用意して、芋焼酎の価値や秘めた可能性を広く知ってもらいたいと考えています。
芋焼酎は「鹿児島の伝統産業」 魅力を伝え、ファンを増やす
後藤さん 冨永さんの今後の目標についてもお聞かせください
冨永さん 芋焼酎は、鹿児島の伝統産業であり、文化だと思っています。その魅力を伝えて、さらに発展させていくために海外市場も含めて、ファンを増やしていきたいと思っています。ただ、芋焼酎だけではありません。
商談などで日本の干し芋の輸出が増えていると聞きます。ニーズがあるようで、芋焼酎とのペアリングにマッチする干し芋の提案もできたらいいなと思っています。また最近、関心をもっているのは、世界的なブームになっている抹茶です。その抹茶とサツマイモを掛け合わせるとか、いろいろな視点でサツマイモや芋焼酎の魅力を引き出して行きたいです。

後藤さん その挑戦はすごく楽しみですね。芋焼酎に合う干し芋、食べてみたいです。われわれSSPでも、食べておいしい、飲んでおいしい、サツマイモの魅力を発信していきたいと考えています。われわれだけではアイデアも行動範囲も限られるので、志をともにできる方々とコラボレーションしながら、活動の輪を広げていきたいです。
そうやってサツマイモが注目を集め、関連するサツマイモ産業が元気になって盛り上がることが、ひいてはサツマイモをつくる農家のみなさんを支え、ひいては就農者を増やしていくことにつながるのだと信じています。できることはきっと、いろいろあると思っています。

(構成=さつまいもニュースONLINE)
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