サツマイモが、街と人をつなぐ。Boom Boom Coffee・えなりん・ni-muが共創した"焼きいもテリーヌ"が生まれるまで
- 13 分前
- 読了時間: 7分
「みんなのサツマイモを守るプロジェクト-Save The Sweet Potato-」(SSP)では、産学連携のコンソーシアムとして、サツマイモ基腐病の防除についての知見を集積するとともに、「より多くの人にサツマイモを食べてもらう機会をつくること」を活動の柱に位置づけています。
その文脈から生まれたサツマイモのスイーツがあります。兵庫県三田市の自家焙煎コーヒーショップ「Boom Boom Coffee」、おいもクリエイターのえなりんさん、米粉おやつ専門店「ni-mu(にーむ)」の三者が共同開発した「焼きいもテリーヌ」です。それぞれ異なる場所・文脈から引き寄せられた人たちが、三田(さんだ)という街でどのように出会い、何を作ったのか。「焼きいもテリーヌ」開発の経緯を紹介します。

プロフィール:
永田真士さん(Boom Boom Coffee) サラリーマンとしてコーヒーを探求するうちに自家焙煎の世界へ。地域のイベントやマルシェに出店するなかで三田市に活動拠点を築き、2025年4月に関西学院大学神戸三田キャンパス近くのインキュベーション施設「Spark Base」内でコーヒースタンド形式の店舗「Boom Boom Coffee」をオープン。
えなりんさん おいもクリエイター、管理栄養士。イモ類のレシピを中心にSNSで発信している。「サツマイモ博」公認レシピクリエイターとしても活動。著書に「どんな食材とも相性抜群!おいもだらけのレシピ」(SDP刊)。
新村かなこさん(ni-mu) 保育園の栄養士として食物アレルギーのある子どもたちの給食に関わった経験から、米粉とお野菜を使ったグルテンフリーのおやつ専門店「ni-mu」を開業。2025年3月に西宮市から三田市に移転し、地元食材を使った活動を行っている。
コーヒーとサツマイモには「共通するところがたくさんある」
―― このコラボレーションはどのような経緯で始まったのですか。
永田さん
SSP代表の後藤さんから「一緒に何かやりませんか」と声をかけていただいたのが最初のきっかけです。SSPの活動を知るにつれて、コーヒーとサツマイモには共通点が多いことに気づきました。
ひとつは病害の問題です。サツマイモ基腐病と同じように、コーヒーにも「さび病」という深刻な病気があります。コーヒーの木が枯れてしまうこの病気が産地で流行すると、供給が激減して世界市場での豆の価格が高騰してしまいます。
そしてもうひとつが品種の多様さです。シルクスイートや紅はるかなど品種によって風味が変わるサツマイモと、数えきれない品種をもつコーヒーは、「品種や産地の組み合わせを楽しむ」という共通の魅力を持っています。コーヒー屋として、サツマイモとのペアリングを提案することに大きな可能性を感じました。

えなりんさん
連絡をいただいてお会いし、三田エリアの特徴などをお聞きしながらディスカッションしました。もともと「長期保存できるスイーツとして芋ようかんを作りたい」というコンセプトがあったのですが、単純な芋ようかんでは自分の創作意欲がワクワクしないなと感じました。
世の中に芋ようかんはたくさんあるので、ここで私たちがつくるスイーツは、わざわざ食べにきたくなるものにしたいと思ったんです。和だけでなく、洋のエッセンスも加えたら唯一無二になると考え、「ようかん」というキャンバスの中に自分のアイデアをいっぱい入れてみようと、手書きのスケッチから作り始めました。

新村さん
Boom Boom Coffeeがオープンすることをインスタグラムで見つけて、お店に来てすぐに永田さんに自己紹介したのが最初の出会いでした。その後、えなりんさんのレシピを製造できないかとお声がけいただきました。私の祖母の地元が鹿児島ということもあり、サツマイモへの親しみもあってすぐに引き受けました。

縁が重なってできたいちじく・レモンという選択
―― 「焼きいもテリーヌ」はどのような商品ですか。
えなりんさん
次世代品種と呼ばれる「栗かぐや」の焼きいもを皮ごとたっぷり使った、しっとり濃密なテリーヌ仕立ての芋ようかんです。栗かぐやはバランスのよい食感と上品な甘さが特徴で、焼きいもにすることで素材の甘みがまっすぐに出ます。黒糖は最小限に抑えて、余計なものを足さない仕上がりにこだわりました。ちなみに、この栗かぐやはSSPコンソーシアムメンバーのアオイファームさんから仕入れています。
永田さん
ボリュームたっぷりで食べごたえがあるのも人気ですね。「コーヒーがもっと美味しく感じる」というお声もいただいています。コーヒーとのペアリングを出発点に生まれた商品として、うれしい反応です。

―― いちじくやレモンを使うことになった経緯を教えてください。
えなりんさん
いちじくは初期段階から入れていたアイデアです。最初は外国産のものを使うつもりだったのですが、永田さんの奥様に「兵庫県産のいちじくがある」と教えていただいて。地産地消の思いはみんな共通していたので、使うことを決めました。
新村さん
偶然ですが、そのいちじくの生産者さんが私の知人で、直接お取引できることになったんです。このテリーヌはいろんなご縁が積み重なってできた商品ですね。
永田さん
焼き芋は寒い季節のイメージがあるので、春夏にも売れるだろうかという不安がありました。そこで、春夏向けに別のフレーバーを作れないかと考え、えなりんさんに相談したところ、すぐにレモン味を提案してくれたんです。

えなりんさん
焼き芋とレモンは、私がずっと好きな組み合わせなんです。レモンは、コーヒーとも相性がよくて、コーヒーにレモンを入れる夏のドリンクを開発したことがあったんですよ。この組み合わせが頭にあったので、レモンはすぐに浮かびました。兵庫県産のノーワックス・防カビ剤不使用のレモンを皮ごと刻んで加えることで、さっぱりと大人が楽しめる味に仕上がりました。
おいしさと長期保存の壁に挑んだ試行錯誤
―― 開発の過程で苦労したことはありましたか。
えなりんさん
保存という壁が大きかったです。これまでは家庭料理のレシピ制作を主にしてきて、長期販売できるスイーツを作った経験はほとんどありませんでした。砂糖を最小限にしたレシピを最初に考えたのですが、それだと賞味期限が2週間ほどにしかならなかった。新村さんに協力していただきながら、砂糖と水分のバランスを何度も調整しながらレシピを開発しました。
新村さん
最低2〜3ヶ月の賞味期限を目標に試行錯誤しましたね。製造工程ではどうしても最低限の水分量が必要ですし、えなりんさんの目指す健康的な甘さのバランスを合わせるのは大変でした。最終的には、出来上がったテリーヌをカットしたあとにオーブンでさらに水分を飛ばす工程を加えて、長期間の日持ちを実現できました。

食べて美味しいだけでなく、人と土地をつなぐものへ
―― 商品に込めた思いや、今後の展開について聞かせてください。
永田さん
Boom Boom Coffeeがある三田のカルチャータウンは、景観に配慮された美しい街並みが特徴です。コーヒーを通して三田の良さを全国・世界に発信していきたいと考えていて、この焼きいもテリーヌもその文脈の中にあってほしいと思っています。
新村さん
手作業で一つひとつ丁寧に作っているからこそ大量生産はできませんが、だからこそ生まれる価値があると思っています。これからも素材や製法へのこだわりは大切にしていきたいです。
えなりんさん
ただ美味しいものを作るだけでなく、人と人、さらにその土地をつなぐ架け橋にしたいと思っています。生産者の苦労が形になって消費者に届き、サツマイモの現状を知る学びにもなる。オンラインでのつながりが広がるからこそ、食べる、会う、話すというリアルな体験の価値もある。コーヒーやスイーツが、そのきっかけになれたら理想です。
現在、「焼きいもテリーヌ」はBoom Boom Coffeeの店頭に加え、コーヒードリップバッグとのセットなどオンラインショップでも限定販売しています。
このプロジェクトを通して、永田さん、新村さんもSSPへの加盟が決まりました。
三田の地で育まれた縁と試行錯誤が詰まったこのプロダクトは、SSPが目指す「サツマイモ経済圏」の広がりを、確かな手触りをもって体現しています。


コメント