大隅半島の南西部に位置する鹿児島県錦江町。西側は錦江湾に面しており、東側の大部分は肝属山地(国見山地)で占められています。そんな山間部で長年農家を営んでいる白井さんも、サツマイモ基腐病の被害に苦しめられている1人です。

異変に気づいたのは4〜5年ほど前。さまざまな対策を行いましたが一向に被害が収まりません。その現状についてうかがいました。
効果があると聞いた対策は全て試した
——サツマイモ基腐病が出始めた頃の状況について教えてください。
最初は葉っぱが黄色がかって萎れていたので、つる割れ病なのかと思いました。しかしその年の植え付けの段階で、苗が全滅してしまったのです。その頃には、つるがどろどろとしたような見たこともない状態でした。それでも1年限りのことか、天候によるものだろうと思っていたのですが、翌年以降も同じような状態になり、試験場に問い合わせ対応しました。
——サツマイモ基腐病が出てからどのような対策に取り組みましたか。
まずは腐ったイモを畑から持ち出すようにしました。菌を畑に拡散させないためです。次の年からは県からの指導が入り、圃場を全面消毒するように言われ、クロルピクリン(ドジョウピクリン)やバスアミド微粒剤で殺菌を試みましたが、それでも治まりませんでした。
ほかにもムシが発生する5月から梅雨前にかけての時期に、殺菌剤をまき消毒した後に、さらに光合成細菌をまくようにもしました。全面消毒するとかえっていい菌まで死んでしまい、雑菌が入ったときに一気に拡大してしまう恐れがあったためです。
また畑の端の部分に盛り土をして栽培する枕畝を作らず、水はけを良くするようにもしました。さらにカメムシが媒介しているという説もあり、カメムシの防除にも取り組みました。カメムシは近年発生が増加しているので、関連があるかもしれません。
——従来と比べると収穫量の状況はどうですか。
それまで毎年3.5〜4トンくらい収穫できていたところ、サツマイモ基腐病が発症してから1トンにも満たないくらいまで減少してしまい、残りは全部腐っている状態でした。収穫量が足りない状態が続いたので、サツマイモ基腐病が出てからは作付面積を4割ほど増やしていますが、それでも従来ほどの収穫量にはならず、売上も減少しています。
そうしたなかで、出てしまってからは止められないので、発症する前から予防しないといけません。その分経費もかかりますし、労力も足りません。とくに今シーズンは防除できなかったので、後半になって症状がひどくなりました。
また気がかりなのは、サツマイモが軟化・腐敗する「軟腐病(なんぷびょう)」という別の病気も発症し始めていることです。周囲の農家さんでも出ているようで、これ以上被害が広がらないことを祈るばかりです。

待たれる特効薬の開発
——今後取り組む対策について教えてください。
畑の栄養状態が関連していると考えています。人間でも食べ物が偏れば病気になるのと同じように、畑も栄養状態が偏っていることで、病気の発症につながっているように感じるのです。これまでそういうことを意識してきませんでしたが、pHを測ることで土壌の状態を常に把握するようにしています。
またイネ科やマメ科の植物を肥料とする緑肥(りょくひ)を使いながら土壌を柔らかく保つほか、菌体資材をまくことで微生物の活動を活発にさせ、土壌の状態を改善していく予定です。
他の農家さんではサツマイモ基腐病に強い品種への切り替えに取り組んでいるところもあるそうです。
人から効果があると聞いた対策は全て試しました。しかしこれといった効果が得られていない状況です。農家が自力で対策していくには限界があります。収穫量が減り収入も減るなかでも、農薬を買うための資金が必要で、利益が残らない負のスパイラルに陥っているのです。これ以上被害が拡大しないためにも、研究機関には特効薬の早期開発をお願いしたいところです。
コメント